K-文学ブームの裏側:翻訳できない「韓国の心」をどう伝える?
こんにちは!皆さんの韓国語の実力をワンランク、いえ、ツーランクアップさせる [毎日ハングル] です!
最近、韓国の作家ハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞するなど、韓国文学やK-コンテンツが世界中で大きな注目を集めていますよね。そこで話題になるのが、「韓国特有の情緒をどう翻訳するか」という問題です。
今日は、上級学習者の皆さんのために、「翻訳理論と実際:翻訳不可能性と文化的固有語」という少し専門的で興味深いテーマをご用意しました。
「情(ジョン)」や「恨(ハン)」、あるいは「(熱いスープを飲んで)涼しい(シウォナダ)」といった言葉を、そのニュアンスを完全に保ったまま外国語に移すことは可能なのでしょうか?
今日は、翻訳家たちが直面するこのジレンマと、それを解決するための戦略について、深く楽しく学んでいきましょう!
📚 今日の核心表現 (Key Expressions)
翻訳の専門的な議論や、高度な文化的会話に参加するために必須の概念と言葉です。
1. 번역 불가능성 (翻訳不可能性)
- 発音 [ロ-マ字]: Beonyeok bulganeungseong [Beon-yeok bul-ga-neung-sseong]
- 英語の意味: Untranslatability
- 詳細説明: ある言語の単語や表現が、ターゲット言語(翻訳先の言語)に1対1で対応する言葉が存在しない、あるいはその文化的背景やニュアンスを完全に再現できない性質を指します。言語学的な差異だけでなく、文化的な差異によって生じます。
- 💡 発音のコツ (Pronunciation Tip):
- ‘성(seong)’は、前の文字のパッチム’ㅇ(ng)’の影響を受け、濃音の [썽(sseong)] と発音される傾向があります(漢字語のサイソリ現象)。
- [Beon-yeok bul-ga-neung-sseong] と、最後の音を強くはっきり発音すると、より専門家らしく聞こえますよ!
2. 문화적 고유어 (文化的固有語 / 文化語)
- 発音 [ロ-マ字]: Munhwajeok goyueo [Mun-hwa-jeok go-yu-eo]
- 英語の意味: Cultural Realia / Culture-specific items
- 詳細説明: その国や地域の固有の歴史、生活習慣、制度などを反映しており、他言語には存在しない単語のことです。例えば、韓国の「オンドル(床暖房)」や「キムチ」、「チョン(情)」などがこれに当たります。
- 💡 発音のコツ (Pronunciation Tip):
- ‘문화(munhwa)’の発音では、’ㅎ(h)’が弱まり [무나(muna)] のように聞こえることがよくあります(有声化/弱化)。
- ‘고유어(goyueo)’はリエゾン(連音化)して [고유어(go-yu-eo)] とスムーズにつなげて発音しましょう。
3. 이화 vs 귀화 (異化 vs 帰化)
- 発音 [ロ-マ字]: Ihwa [I-hwa] vs Gwihwa [Gwi-hwa]
- 英語の意味: Foreignization vs Domestication
- 詳細説明: 翻訳戦略の二大潮流です。
- 이화 (異化): 原文の異国情緒を残すため、あえて馴染みのない表現を使うこと。(例:’Kimbap’をそのまま’Kimbap’と表記する)
- 귀화 (帰化): 読者が理解しやすいように、自国の文化に置き換えること。(例:’Kimbap’を’Korean Sushi’と訳す)
- 💡 発音のコツ (Pronunciation Tip):
- ‘귀화’の ‘ㅟ(wi)’ は二重母音ですが、口を素早く動かして一音節で発音します。
4. 뉘앙스를 살리다 (ニュアンスを生かす)
- 発音 [ロ-マ字]: Nwiangseureul sallida [Nwi-ang-seu-reul sal-li-da]
- 英語の意味: To keep/bring out the nuance
- 詳細説明: 直訳するのではなく、原文が持つ微妙な意味合いや感情、雰囲気を損なわずに翻訳することを意味します。上級レベルのコミュニケーションでは非常に重要な表現です。
🗣️ 実践会話 (Example Dialogue)
翻訳大学院の授業後、二人の学生が課題について議論しています。
A (ミンジ): 이번 과제, 한국의 ‘정(情)’을 일본어로 번역하는 거였잖아. 어떻게 했어?
(今回の課題、韓国の「情」を日本語に翻訳することだったじゃない。どうやった?)
B (ケンタ): 정말 어려웠어. 단순히 ‘nasake(情け)’나 ‘aijou(愛情)’라고 하면 그 뉘앙스를 살릴 수가 없더라고.
(本当に難しかったよ。単純に「情け」とか「愛情」って言うと、そのニュアンスを生かすことができないんだよね。)
A (ミンジ): 맞아. 그게 바로 번역 불가능성의 대표적인 예지. 그래서 교수님도 이화(Foreignization) 전략을 써서 그냥 ‘Jeong’이라고 표기하고 주석을 다는 방법을 추천하셨잖아.
(そう。それがまさに翻訳不可能性の代表的な例だよね。だから教授も、異化戦略を使ってそのまま「Jeong」と表記して、注釈をつける方法を勧めてたじゃない。)
B (ケンタ): 응. 요즘은 K-콘텐츠 덕분에 한국의 문화적 고유어가 그대로 세계에 알려지는 추세니까, 굳이 무리하게 귀화(Domestication)시킬 필요는 없는 것 같아.
(うん。最近はK-コンテンツのおかげで、韓国の文化的固有語がそのまま世界に知られる傾向にあるから、あえて無理に帰化させる必要はない気がするよ。)
🌏 文化のヒント & トレンド深層分析
「韓国語の味(맛)をどう生かすか?:トレンドは『異化』へ」
最近の翻訳トレンドにおいて、最もホットな話題は「可視性(Visibility)」です。
以前は、読者がスムーズに読めるように、韓国の「チゲ(찌개)」を「スープ(Soup)」と訳したり、「焼酎(소주)」を「韓国のウォッカ(Korean Vodka)」と訳すような「帰化(Domestication)」戦略が主流でした。
しかし、最近のNetflixドラマやWeb漫画、そして文学作品では、韓国語の固有語をそのままアルファベットやカタカナで表記する「異化(Foreignization)」戦略が好まれています。
- 例:
- 先輩 → Sunbae (Seniorではない)
- オッパ → Oppa (Brotherではない)
- コチュジャン → Gochujang (Chili pasteではない)
これは、世界中の人々が韓国文化そのものに関心を持ち、文脈の中でその言葉の意味を理解しようとする姿勢(能動的な読書)が強まっている証拠です。
特に、ハン・ガン作家の作品が世界的に評価された理由の一つに、翻訳家デボラ・スミス氏が、韓国語特有の擬態語や色彩語の「詩的な響き」を最大限に尊重し、創造的な翻訳を行ったことが挙げられます。
上級学習者の皆さんが翻訳に挑戦する際は、「意味を伝える」だけでなく、「文化の香り」をどう残すか、という視点を持ってみてください。それが、真の異文化コミュニケーション能力です!
📝 今日のまとめ & 練習問題
今日は、翻訳理論の中でも特に興味深い「翻訳不可能性」と「文化的固有語」の扱いについて学びました。言葉を移し替える作業は、単なる技術ではなく、文化と文化をつなぐ架け橋を作る芸術のようなものですね。
【練習問題】
次の文脈において、翻訳家がとった戦略は 「A: 異化 (Foreignization)」 と 「B: 帰化 (Domestication)」 のどちらでしょうか?
韓国小説の翻訳本の中で、主人公が食べている「トッポッキ (떡볶이)」を、現地の読者に分かりやすく 「辛い餅の炒め物 (Spicy Rice Cake Stir-fry)」 と翻訳した。
正解: ( )
正解がわかった方は、ぜひコメント欄に残してください!
また、皆さんが「これは日本語/母国語に翻訳するのが難しい!」と感じた韓国語の単語はありますか?
「눈치(ヌンチ)」?それとも「답답하다(タプタパダ)」?
皆さんのエピソードも教えてくださいね!
それでは、また次回の[毎日ハングル]でお会いしましょう!